白内障・ICL(眼内コンタクト)手術では、患者が覚醒状態のまま顕微鏡下の精密操作を受けるという特性から、痛みの最小化・精神的ストレスの軽減・全身状態の安定化が極めて重要となります。特に高齢者や循環器疾患、代謝疾患を有する患者では、術中の不安や緊張が血圧変動・頻脈・過換気を誘発しうるため、心理的負担を適切にコントロールすることが安全性確保の鍵となります。
その中で、歯科・小児医療・産科などで確立された手法である笑気吸入鎮静法(nitrous oxide sedation:N₂O sedation)を、眼科領域の短時間手術に導入する施設が近年増えています。本稿では、笑気麻酔の pharmacology(薬理学的特性)から、他領域のエビデンス、白内障手術における臨床的利点、安全性・副作用まで総合的に解説します。